このページは、ヒルデガルト『Scivias』を読むうえで大切になる、「原本」と「写本」の関係をわかりやすく整理するための解説ページです。
現在わたしたちが触れられる『Scivias』は、ヒルデガルトの時代に書かれた“ただ一つの原本”ではなく、書き写されて受け継がれてきた写本を通して伝わっています。
このページでは、このSciviasの原本と写本について、そして今回主に扱うハイデルベルク写本について紹介します。

「原本」と「写本」は何が違う?
原本とは
ここでいう「原本」は、一般に 著者が最初にまとめた原稿(オリジナル)、あるいは著者の監修に強く関わった最初期の版を指す言葉として使われます。
ただし中世の書物では、現代の印刷物のように「唯一の原本」がそのまま残るとは限りません。制作と流通の基本単位は写本であり、テキストは写し継がれる過程で様々な形を取り得ます。
写本とは
「写本」は、手で書き写された本(写し)です。
写本は単なるコピーではなく、書き写す人(書記)の習慣や時代、地域、目的の違いが反映されるため、綴り・略記・語形・区切り・注記などに揺れが生じることがあります。
それでも写本が持つ価値は、まさに「当時の伝わり方」そのものが刻まれている点にあります。
写本が複数あるのはなぜ?
中世の書物は、現代のように印刷して大量に配布することができませんでした。
そのため一つの作品が読まれ、学ばれ、祈りの中で用いられていくほど、必要に応じて新しい写し(写本)が作られていきます。『Scivias』もまた、そうした営みの中で各地へ広がり、複数の写本として伝わってきました。
- 読む共同体が増えたため
- 修道院や学びの場で参照されるようになると、手元で読める写しが必要になります。
- 用途が分かれたため
- 朗読・教育・黙想など、使い方に応じて写され方(区切りや注記)が変わることがあります。
- 書記や時代の違いが反映されるため
- 省略記号(略記)の使い方や綴りの癖は、書き手や地域によって異なります。
- 伝承の過程で補助情報が増えるため
- 余白の注記や目印が加わることで、後の写しに影響することがあります。
つまり写本の複数性は、作品が「分裂した」というよりも、読まれ続けた結果として自然に生まれた広がりだと言えます。
本サイトでは、その広がりの一つである写本本文に丁寧に立ち返り、AIの力を借りながら略記を展開した正規ラテン語へ起こし、日本語訳として新たな“読みの写し”を作っていきます。
ハイデルベルク写本について
今回の翻訳のベースとなる『Scivias』のハイデルベルク写本は、ハイデルベルク大学図書館がデジタル公開している写本です。
この写本はページ単位で閲覧できるため、テキストの流れだけでなく、余白・区切り・略記の雰囲気まで含めた「写本として伝わった言葉」に触れながら、翻訳として言葉を形にしていくことができます。

基本情報(参照元)
- 名称:Liber Scivias(ヒルデガルト・フォン・ビンゲン)
- 所蔵:ハイデルベルク大学図書館(Universitätsbibliothek Heidelberg)
- 成立:12世紀末〜 1220年頃
- 閲覧先(デジタル公開):ハイデルベルク大学図書館【公開ページへ】
- 参照用:Internet Archive【公開ページへ】
このハイデルベルク写本は、どこで作られ、どう現存しているのか
ハイデルベルク大学図書館が公開するこの『Liber Scivias』は、図書館の記述では 「中世ドイツの修道院」に関わる写本として示され、成立は 12世紀末〜1220年頃とされています。
つまり、ヒルデガルト本人の手になる“唯一の原本”ではなく、中世の修道院文化の中で書き写され、受け継がれてきた伝本(写本)のひとつとして、今日まで伝わっているものです。
そして現代では、ハイデルベルク大学図書館によってページ単位でデジタル公開されているため、本文の内容だけでなく、行分け・余白・略記といった「写本としての姿」そのものに触れることができます。
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